企画屋から魚屋へ、はたらき方を変えたお母さん

「いつでも、どこでも。へいおまち。」をキャッチフレーズに、築地ツアーや魚さばき教室、オフィスや個人宅へのケータリングサービスを行っている魚屋がある。その名は「魚屋あさい」。浅井和浩さん・有美さん夫婦が手掛ける、住所を持たない“ノマドな魚屋”だ。

魚屋を営む浅井有美さん(32)は、出産を経てはたらき方を大きく変えた。会社を辞め、まったくの未経験だった魚屋の仕事をするという決断は、浅井さんを「はたらく人」としても「お母さん」としても成長させてくれたという。

時短で仕事が制限されるよりも

子どもが生まれたのをきっかけに、はたらき方について悩む女性は意外と多い。妊娠・出産前と同じはたらき方ができなかったり、子どもが小さいうちははたらく時間を変えたいと思ったり……。ただ浅井さんのように、会社を辞めても、自らはたらく場を作ることはできる。

浅井さんは出産前、イベントのコーディネーターをしていた。収支の管理からPR、スポンサー探しまで一手に引き受け、バリバリはたらいていた。

自分の得意なことが、魚屋でも生きるかもしれないと考えた

自分の得意なことが、魚屋でも生きるかもしれないと考えた

子どもを産み育児休暇に入った浅井さんは、はたらき方について思いを巡らすようになったという。「会社に戻ったとしても、時短勤務では大きなイベントをフロントに立って引っ張っていくことは難しいだろうと思いました」(浅井さん)。

実は浅井さん、育休中の空いた時間に、夫が副業で営んでいたケータリングサービスの“PR”を始めていたという。無料のソフトを使ってホームページを立ち上げ、フェイスブックページも開いた。知人を介して海外向けのメディアにアプローチしたり、海外向けの情報サイトに情報を書き込んだりもした。子どもが寝ている時間を使って、思いついたこと、できることから少しずつ形にしていったのだ。

浅井さん自ら魚をさばくこともある

外国人観光客にも人気

夫の友人を中心に口コミで評判を呼んでいたケータリングサービスは、浅井さんのはたらきでどんどん広がっていった。知らないお客さんから問い合わせが来始め、外国人観光客や子どもといった新たな層からの反応も増えてきた。

築地の場内市場には700もの業者が軒を連ねていたが、一般の人にはどこでどんな魚を買えばいいのかわからない。外国から来た人はなおさらだ。英語が話せる浅井さんが外国人観光客に市場を案内、買い付け体験を行い、夫が魚のさばき方を教えてその場で食べてもらうというツアーを組んだところ人気を博し、旅行会社や交通機関と一緒にお客さんを集めることも多くなってきた。

はたらき方は自分で決める

会社に所属しているとどんなに子育て制度が充実していても、組織の決まり事の中ではたらかなければいけない。一方で、自営業ならはたらき方は自分で決められる。

水産業界や魚の知識が人一倍豊富な夫と、イベント企画やPRに強い浅井さん。夫婦それぞれの得意分野を生かしながらはたらくほうが今の自分に合っているのでは。浅井さんは、会社を辞めて魚屋の仕事をなりわいとすることにした。

夫婦ではたらくからこそ得られる喜びもある

夫婦ではたらくからこそ得られる喜びもある。写真は2人の結婚式での一コマ

「前の仕事に比べるとイベントの規模は小さいけど、2人でアイデアや知恵を絞って仕事を作っていくのがおもしろいんです。何より、注文がとれたときやお客様が感動してくれたとき、売り上げが目標に届いたとき、夫婦で喜びを共有できるのがうれしい」(浅井さん)。

夫婦でユニットを組んではたらくことは、子育ての面でもメリットが多いという。「会社員だったときは、仕事と家庭は別ものという感覚でした。今は、生活の中に仕事と家庭があります」(浅井さん)。仕事は基本的に夫婦で出掛けるので、スケジュールを入れるときには必ず子どものことも考える。夫婦で子どもについて話し合う機会も増えた。目下の目標は、「子どもにおカネがあまりかからない今のうちに、『魚屋あさい』で生活できるようビジネスを確立すること」だ。

今、魚屋あさいでは、築地ツアーに加えさまざまな企業とのコラボを始めている。セブン&アイ・ホールディングスと子ども向けの食育講座を企画したり、エイベックスと大人向けのおもてなし講座を立ち上げたり。あさいだから提案できるコンテンツをコラボ企業に合った内容で提案し、売り上げを伸ばしている。

子ども向けの魚講座は人気

子ども向けの食育講座

さらに今後は築地でのツアーや魚さばき教室の地方展開、個人宅向けの鮮魚の配達サービスなども考えているのだそう。スタッフには夫婦のほかに、寿司職人とシェフの2人が加わり、ケータリングサービスを同じ日に3回転まで行えるようになった。月100万円くらいの売り上げを早いうちに1.5~2倍弱くらいまで増やしたいという。

妊娠、出産という環境の変化に合わせて自ら仕事を作り出した浅井さん。特別な人のように見えるけれど、最初は会社で培ってきたスキルをどうにか生かそうともがくところから始まった。置かれた環境の中で自分ができることをやってみることこそが、新しく仕事を作り出す第一歩なのかもしれない。

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