頑張りすぎないで! 在宅仕事にはコツがある

Photo by MARIA

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自宅で自由な時間にはたらける在宅ワーク。「家庭と両立しやすそう」「通勤がなくてラクそう」というイメージを持つ人も多いかもしれない。けれどフリーランスで事務仕事を請け負う山下典枝さん(仮名、42)は、「自宅で仕事ができる分、仕事に対してはよりプロ意識が求められる気がします」と話す。

事務職のフリーランスに

山下さんはもともと、企業で人事労務の仕事に携わっていた。産育休を取った後、一度は会社に復帰したものの子育てに専念するため退職。子どもが小学校に上がり、再びはたらこうと考え始めたときにネットで見つけたのが、フリーランスでの業務委託というはたらき方だった。

フリーランスはデザイナーやプログラマー、ライターなど専門的なスキルを持った人がなるものと思われがちだが、最近は事務代行秘書など、いわゆるホワイトカラーの職種でも需要がある。調べていくうちにたどり着いたのが、人事や広報、マーケティングといった仕事を業務委託という形で紹介してくれる「Waris」という会社だった。山下さんはとにかく登録してみることにした。

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これまでの経験が買われ、紹介されたのは渋谷のIT企業。まだ新しくスタートアップの段階で、人事システムの構築を業務委託で請け負うことになった。勤務は週5日。初めは出社して仕事をしていたけれど、自宅のある埼玉から通うには時間がかかることもあり、会社と相談して自宅で仕事をすることになった。

家事も仕事も頑張りすぎた

こうして、山下さんの在宅ワークがスタートした。朝、家族を送り出し、家事を終えたらパソコンの電源を入れる。メールや電話、ネット会議などで上司から指示を仰ぎ、業務をこなしていった。山下さんの仕事ぶりが認められたのか、やがて労務フローの見直し業務も請け負うように。学校から帰る子どもを自宅で迎えることができるこのスタイルを、山下さんは気に入っていた。

ところが、山下さんの暮らしに少しずつ変化が現れ始めた。

山下さんは結婚後もずっと仕事を続けていたため、夫が家事や子育てを手伝ってくれることも多かった。けれど山下さんが自宅で仕事をするようになると夫の手伝いは少なくなり、家事、育児など家庭のことはすべて山下さんにのしかかるようになっていたという。

仕事は完璧にこなさなければならない一方で、掃除機も毎日かけて、家族の食事もしっかり作る。仕事も100%、主婦業も100%を目指すその生活にいつしか疲れを感じるようになっていた。子どもを笑顔で見守るはずが、気が付けば自分がいつも疲れていた。

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「私自身も“家にいるのだから、仕事も家事も両方できる”と過信していた部分もあったかもしれません」(山下さん)

「これではいけない」。そう考えた山下さんは少し手抜きをしてみることにした。毎日すべての部屋にかけていた掃除機を一日おきにしてみたのだ。ほんの小さなことだけれど、これがよかったと振り返る。「毎日完璧に掃除機をかける」というのは、いわば自分で作ったハードル。目標を少し下げただけで、気持ちがかなりラクになったという。

ストレスから体調不良に

仕事と家庭のバランスが取れ始めたころ、Warisから紹介された仕事とは別に、知人の会社から声がかかった。短期アルバイトとして在宅で事務を手伝ってほしいという。それなら今の仕事と似たようなものだと気軽に思って引き受けた。ところが、同じ業務委託でもこちらは山下さんにとって大きな負担となった。

会社からは、仕事の進捗状況を30分~1時間ごとに報告書にして提出するようにと求められる。「作業の途中でも手を止めて報告を入れないといけない。管理されている状況に、疲れが倍増しました」と山下さん。

この頃、義母の体調も悪くなり、土日は病院に通う日々。ろくに休養も取れないままストレスが重なり、山下さんは突発性難聴になってしまった。仕事の納期をずらしてもらうなどしてなんとか乗り切ったが、自分の仕事の進め方にも問題があったと感じている。

業務内容は明確に

厚生労働省によると、現在、在宅で仕事をしている人は全国で126万4000人。在宅ワークをするため準備に入っている人や、やってみたいという予備軍も入れるとその数は581万4000人にもなるという。けれどその実態はまだあいまいなものが多く、課題も少なくない。

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Warisの代表取締役・田中美和さんは、業務委託契約をする場合、業務内容をはっきりさせることが重要だと話す。

「雇う側の会社は、まだ業務委託というものに慣れていないことが多い。だからこそ、請け負う側がどの業務が委託されるのか明確にする必要があります。ゴールさえはっきり見えていれば、どこまでが自分の仕事かわかりやすくなるはずです」(田中さん)

仕事の進め方も大切だ。業務の内容や範囲が明確になっていれば、請け負う側の責任は期日までに業務を完了することであり、はたらく時間ではなくなる。仕事の早い人ならば、半日でその日の業務は終了ということもありうる。けれどこのとき、業務量や報告の頻度についての契約を誤ると、山下さんのような状況になってしまう。

過去の経験からコツをつかんだ山下さんは今、元の職場から声がかかり、こちらと短期の業務委託契約を結んだ。もうしばらくはこの“業務委託”というワークスタイルを続けていくという。

多様なはたらき方の一つとして期待が高まる在宅ワーク。子育て世代にとって、自宅ではたらけるというのは魅力的だ。

けれど、決してよいことばかりではない。企業側も試行錯誤中で、改善が必要な部分も多い。だからこそ請け負う側も、在宅ワークとはどのようなはたらき方なのかをしっかり把握し、知識と知恵をつけておきたい。

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