社会とつながりたいと思ったとき、まず探すことは?

Photo by MARIA

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子育て中心の毎日を送っていると、「○○ちゃんのお母さん」と呼ばれることが増え、自分の名前で呼ばれる機会がだんだん減ってくる。自分が社会から必要とされていないような寂しさを感じ、孤独感に襲われることもしばしば。

私が以前、キャリアカウンセラーの養成講座を受けていた頃、ある講師との出会いがあった。現在はキャリアやメンタルヘルス関連のカウンセラー、研修講師などとして活躍しているその人も、実は約30年前には同じような孤独感と闘っていたと知って驚いた。そして、彼女がそれをどう乗り越えて現在に至ったのかという話を聞いて、私自身も勇気を与えられた。

踏み出すきっかけはほんの小さなことでいい――。彼女が教えてくれたのは、そんなことだった。

社会とつながるには

守屋奈美枝さん(57)は、一般社団法人離活コーチング協会の代表理事。カウンセリング、コーチングを通して、キャリアや結婚・離婚など人生のイベントに関するセミナーの講師として活躍している。

今でこそ、ポジティブ心理学コーチ、キャリアコンサルタント、シニア産業カウンセラーなど、数々の肩書を持って活躍している守屋さんだが、結婚後はそれまで勤めていた大手メーカーを退職し、専業主婦として家事・子育て中心の毎日を送っていたという。

子どもが小さいうちは育児に専念し、子どもに手がかからなくなったら少しずつ仕事を再開しようと思っていたが、現実は思い描いたとおりにはいかない。「○○くんのお母さん」としか呼ばれない日常に、今までに経験したことのないような寂しさを感じていた。

「何か始めたい。でも私には何もない。この状況で社会とつながるにはどうしたらいいのだろう」

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ふとある考えが浮かんだのは、子どもを連れて近所の図書館などで過ごしながら、一人物思いにふけっていたときのこと。それは「『○○くんのお母さん』ではなく自分の名前で呼ばれる何かを探してみよう」というアイデアだった。

新聞の投書欄に

普段、何げなく眺めている新聞。その投書欄が目に入った。この欄に採用されれば自分の名前が新聞に掲載される。守屋さんはさっそく、ある新聞の家庭欄に投稿してみようと思い立った。

「家族の喜ぶ顔が見たくて、それまで怖くて手をつけられなかった生の魚を初めて一匹さばいてみた」という日常生活の中で起きたささいなエピソードをまとめたものだった。

1回目の応募でなんと採用。後から聞いたところによると、その新聞の投書欄は倍率約200倍という狭き門で、1回目の応募で採用されるのはたいへんなことだったという。

それからというもの、守屋さんは子どもを連れて毎日のように図書館に通った。新聞や雑誌を隅から隅まで読み、それぞれの媒体の傾向を自分なりに分析。ありとあらゆる投稿欄へ投書する日々を送った。

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掲載されることが自信につながり、場合によっては謝礼も送られてくる。それが大きな励みになって、生活にも張りが出てきた。自然と子育てに対するストレスもなくなっていったという。

念願の再就職

こうして社会とのつながりを実感できるようになった守屋さんは、その後、子どもの幼稚園入園を機にはたらき始める。最初の就職先は、ある近所の小さなアニメ制作会社。

仕事内容は、セル画の色付け作業。アニメーション制作にかかわる数多くの工程のほんの一部にすぎない仕事だったが、あるアニメ番組のエンドロールにスタッフの一員として名前が載った。

かかわる作品が増えるほど、名前が掲載される機会も増える。こうした中で、「〇〇くんのお母さん」ではなく「守屋奈美枝」として社会に存在していることを実感するようになったという。

育児を通して増えたもの

子育て中心の毎日から「はたらくための一歩を踏み出す」というとなんだか身構えてしまうけれど、まずは自分の名前で呼ばれることを探してみると考えるだけでも、そのハードルはぐんと低くなる。

育児期であってもできることは、自分が思っている以上にたくさんあるんだと気づくかもしれない。まずは小さなことから、自分自身がワクワクできる何かを自由に探してみることは、それだけで可能性が広がっていく気がする。

守屋さんは「『社会から離れて失ったもの』ではなく、『育児を通して増えたもの』に目を向けてみては」とアドバイスする。

確かに、守屋さんが最初に新聞に投稿した「生の魚を初めてさばいてみた」というエピソードも、日常のほんの小さな気持ちの変化に目を向けたもの。そう考えて目線を変えてみると、小さなきっかけが見つかるかもしれない。(みらいハウス・福井りょうこ)

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