「ゆるく細く」はたらき続けるという選択

週に3回だけオープンする

週に3回だけオープンする「ことり文庫」

鎌倉から江ノ電に乗ることおよそ10分、極楽寺駅で下車し、そこから3分歩いた場所に、絵本専門店「ことり文庫」がある。オーナーは、4歳と1歳の女の子を育てる、川崎ふみさん(39)。都内の大型書店ではたらいた後、東京・梅が丘で絵本店をオープンし、長女を産んでから鎌倉へ移った。自宅の一角を店舗にし、週3日だけお店をオープンする。

川崎さんがこの“週3スタイル”にたどり着くまでには、さまざまな試行錯誤があった。

川崎ふみさん

川崎ふみさん

梅が丘のお店を営んでいた4年間は、365日、昼夜問わずはたらいていた。仕事に自信がついてきて、そろそろ子どもを産もうと決めたのが34歳のとき。梅が丘のお店は賃貸だったこともあり、「家賃のために」はたらいていたような面もあった。

そんな状況も打破したく、また、生まれてくる子どもとの暮らしを想像したとき、自宅の一角でお店を構えることを決めた。「自然の中で子育てをしたかったのです」と川崎さん。自宅兼店舗は鎌倉の地に構えることにした。

子育ては片手間ではできない

自宅に「ことり文庫」をオープンしたのは、長女が1歳3カ月のとき。約2年後に二女を出産する。生粋の“仕事人間”だったという川崎さんは、子どもを産む前、仕事:子育て=7:3のつもりだった。でも実際には、仕事:子育て=3:7。「実際の子育ては思っていたより楽しくやりがいもあるし、片手間ではできないことに気づきました」(川崎さん)

子どもたちと一緒に店に立つことも

子どもたちと一緒に店に立つことも

お店は週に3回だけ。以前のようにはたらけないことへのジレンマがないと言ったらうそになる。が、「店はいつでもできる。子育ては今しかない。せっかく子どもが欲しくて産んだんだから、子育てをしないともったいないと思う」と川崎さんは話す。

一方で、子育てに比重を置きながらも、「自分のやりたいことを続ける」という軸は揺らぐことがない。「この仕事は私のアイデンティティ。夫や子ども、年齢や環境にかかわらず、自分自身としていられる唯一のもの」と考えている。

今は“冬眠”のとき

梅が丘のお店を閉める前、イベントで呼んだ写真家の大竹英洋さんが熊の冬眠の話をしてくれた。「熊は、冬眠中に、こどもを産む。冬眠というのは、ただ、寒いから眠っているわけではなく、次の季節に向けての準備期間なんだ、と」(川崎さん)。この話は、川崎さんのはたらき方の大きなよりどころとなっている。

やりたいことはまだたくさんある

やりたいことはまだたくさんある

川崎さんは、数年後の未来図を描きながら歩んでいる。「今は、冬眠中。子どもが小学校に上がったら、店を週5日開けたいし、ゆくゆくは鎌倉の商業地域でも店を始めたい。開催したいイベントもたくさんある。そのためには、今は『途切れずに細々とでも続けること』が大切だと思っています」(川崎さん)

ゆるく細く、自分の道を進んでいく――。川崎さんは、10年後、20年後の未来を見据えながら、「本屋」と「子育て」という現在の自分の仕事に向き合っている。

<川崎さんのおすすめの絵本3冊>

児童書選びのプロである川崎さんに、『ハレタル』の読者向けに、心が解き放たれる絵本を3冊選んでもらった。「子育てからちょっと離れて、自分に向き合える絵本です」(川崎さん)。子育てを頑張るお母さんにとって、とっておきの一冊となりますように。

  • 『ソナチネの木』岸田衿子・著、安野光雅・絵

母の日のプレゼントなど、女性への贈り物としてよくおすすめします。岸田衿子さんが描く、タイトルのない詩画集です。とても軽やかで自由で、説教くさくないのがいい。安野光雅さんの挿画がまたすばらしく、まるで無人島で拾った古い日記帳のような雰囲気。時に、文字が逆さになったり、流れて行ったり、零れ落ちたりといった奔放さも加わり、読み進めるうちに、心が自由になっていくのを感じられます。

  • 『あなただけの ちいさないえ』ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ・著、アイリーン・ハース・絵、星川菜津代・訳

「あなたはあなただけの家をもっていますか?」と投げかけ、子どもも大人も、自分だけの「ひとりになる空間が必要」というメッセージをやさしくうたいます。そして、それぞれの人がそれぞれの家で「快適に過ごすルール」が書かれています。子どもが小さな家を持つことを尊重することと、大人にとっても小さな家を持つことは必要ということを、絵本を通して親子間で共有できる一冊です。

  • 『かぜは どこへいくの』シャーロット=ゾロトウ・著、ハワード=ノッツ・絵、松岡享子・訳

小さな男の子が母親にさまざまな質問を投げかけます。「おひさまはどこへいくの?」「かぜはどこへいくの?」。それに答える母。子どもにとったら素朴な疑問が解決されるだけのことかもしれません。でも、母親の答えを聞きながら、同時に私たち読者も、「終わるものは何もなく、その向こうでまた何かが始まっている。すべては続いていくのだ」ということを、改めて感じさせます。

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