二子玉川の「地ビール」を育てるお母さん


「まさか自分が地元のビールを作るなんて、思ってもいなかったんです」。

そう語るのは、市原尚子さん。中学生の子どもを持つお母さんでありながら、二子玉川でクラフトビールを造る、ふたこ麦麦公社の代表を務めている。

ふたこ麦麦公社が造るのは、地元・世田谷の原料にこだわったクラフトビール。

「フタコエール」と「ハナミズキホワイト」は、せたがや自然農実践倶楽部から大麦とホップを提供してもらった。「ハナミズキホワイト」の洗練された雰囲気のラベルは、地域デザインブランド「futacolab」の支援アーティスト、おがたりこさんが描いたハナミズキの絵が元になっている。まさに地元に根差したビールだ。

きっかけは飲み会

市原さんはもともと、外資系企業で編集の仕事をしていた。2014年の8月、「二子玉川にクラフトビールがあればいいね」という話が持ち上がってから、わずか半年で会社を立ち上げることに。

きっかけは、仕事帰りのお母さん同士の飲み会、「夕暮れ女子会」での何げない一言。市原さんが、友人の小林結花さんたちと飲みながら、「二子玉川には、ゆるキャラとクラフトビールがない」という話をしたことだった。

市原尚子さん

ふたこ麦麦公社の代表、市原尚子さん

14年の夏、小林さんに、二子玉川に誕生したコミュニティ施設「ふたこのへや」から声がかかった。オープニングイベントに、にぎやかしのつもりで参加してクラフトビールのプレゼンテーションをしたところ、周囲の反応がとてもよかった。

「それなら」とクラフトビールについて調べ始めた市原さんと小林さん。あれよあれよという間に、会社を立ち上げることになった。

「笑顔で乾杯」のはずが

とはいっても、立ち上げは簡単だったわけではない。ビールは好きでも醸造のことなど何も知らなかった二人。まずは片っ端からビール醸造所やビアパブを巡り、ビールの造り方やスタイルを学んだ。行く先々で親切にしてもらったり楽しく乾杯したりとビールの輪が広がることがうれしかった。

一方で、「本当に作れるの?」と言われたり、初歩的なことを根掘り葉掘り聞きすぎてあきれられたことも。醸造所の予定地が借りられなくなるなど、思うようにならない問題も増えてきた。

意見が食い違い、雰囲気も悪くなって、メンバーの笑顔が消えていった。皆が笑顔で乾杯してくれることを楽しみに始めた会社なのに、どんどんつまらなくなってしまう……。市原さんは悩み始めた。「自らが楽しんでいなければ、楽しくなさそうなことを誰も応援し賛同してくれるはずがない」。

悩む中で、そう気づいた市原さん。それからは、とにかく楽しんでやることを強く意識するように。最初からできないのは当たり前。泥臭くてもカッコ悪くてもいい、背伸びしないで一生懸命にやればできないことはない。今の自分にできる等身大の事業を目指せばいい――。

楽しいことをしていると人はおのずと集まるもの。手助けをしてくれる人、いつも気にかけてくれる人、ビールの大ファンになってくれる人。ビールを通して、人の輪がどんどん広がっていった。

新たな文化を育てたい

今年5月、市原さんは会社を辞め、ふたこ麦麦公社の活動に専念することに。

稼ぎだけを考えると会社ではたらいていたほうがいい。でも、「今、自分が頑張らなかったら、せっかく始まったことが途切れてしまうかもしれない」と考えた。

市原さんの、「フタコエールでフタコにエールを」という思い。クラフトビールの文化を二子玉川に根付かせて、次の世代に伝えたいのだという。近々、醸造免許を取り、二子玉川に醸造所を構えるつもりだ。

二子玉川の焼き菓子とコラボすることも

二子玉川の焼き菓子とコラボすることも

まだまだ、やらなければならないことはたくさんある。

でも、「難しさに“観念”し、楽しみながらやってみる」のが市原さんのスタイル。新しいことに挑戦するのに、年齢も仕事のキャリアも関係ない。市原さんはご縁をつなぎながら、等身大の私の働き方を見つけたのだ。

文:遠藤聖子(Loco共感編集部)

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