フィンランドの森でビルベリーを摘む

白夜の季節が終わり、夜の闇がまたやって来た。私の住むフィンランド北部のロヴァニエミでは、朝、仕事に向かう道で吐く息が白く、もう秋がきてしまったとあきらめに似た心境になる。今年は春の訪れがとても遅かったから、いつもの短い夏がさらに短くはかないものとなった。

だけど秋は収穫の季節。夫の両親から「この秋すでに10リットルバケツに数杯分のビルベリー(ブルーベリーの原種)を森で摘んだ」と画像が送られてきた。今年もベリーの季節がやってきた、と私たちにもエンジンがかかる。

フィンランドの法律がおおらかな理由

ラップランドの森では、秋になっても大量の蚊とブヨ(吸血性で小さなハエのような見ための虫)に悩まされる。森に入るときはできるだけ皮膚を露出しないことが大切だ。目の細かいネット製の虫除けジャケットを着用し、長靴をはき、バケツとpoimuri(ポイムリ)と呼ばれるベリー摘み用の道具を持ち、車に乗って出発だ。

ベリーを摘む道具、ポイムリ。これは夫の両親から譲り受けた金属製のもので、最近はプラスチック製しか見かけない

ポイムリという存在は、フィンランドに来て初めて知った。ベリーを摘むための箱型の道具で、箱の側面の片方は開いていて、底は熊手のようになっている。ここにベリーを引っ掛けてガサッと一度に収穫する。箱の中にベリーがたまったらバケツに開ける。ベリーと一緒にポイムリに入ってしまった葉や枝を家に帰ってから取り除かなくてはならないのが難点だけど、収穫のスピードは手摘みとは比べ物にならないくらい速くなる。今回、うかつにもこのポイムリを忘れ、カメラだけを持って出かけてしまった。

ビルベリーの木は膝に届かないくらいの高さで、秋には紅葉し、森に赤い絨毯をしいたようだ

森の中は、ビルベリーが鈴なりになっている。初めて見たときは「こんなに?」と驚いた。

フィンランドでは法律で「森が私有地であっても、自然になっているベリー類を自由に収穫して良い」と定められている。日本ではこうはいかないなぁ、とつい思ってしまう。でもそれはフィンランドと日本では環境がまったく違うからだ。フィンランドの国土は日本よりやや狭いくらいだが、暮らしている人口は兵庫県と同じくらい。さまざまな場面でフィンランドが日本よりも大らかでいられる理由がそこにある気がする。

収穫したビルベリーは冷凍保存する。この季節うちの冷凍庫はビルベリーでいっぱいで、これ以上もう何も入らなくなる

摘んだビルベリーはその日のうちにタッパーに小分けにして冷凍する。葉や枝を除く作業はこの日、夜までに終わらなかった。朝、森へ出かけるところから始まり、ベリー摘みはなかなかに根気のいる作業だ。

冷凍したビルベリーは解凍してヨーグルトやオートミールと一緒に食べたり、スムージーにしたりパイにして焼いたりと、来年の収穫まで一年じゅう食卓を飾ってくれる。

夫の母お手製のビルベリーパイ

積雪まで収穫できるベリーは?

秋が深くなると、別のベリーを収穫できる。ビルベリーの次はリンゴンベリーだ。リンゴンベリーは気温が氷点下に下がる時期になってもおいしさが保たれるので、収穫時期が比較的長い。ビルベリー熱がおさまると、私たちはまたいそいそと森へ出かけることになる。

リンゴンベリーを収穫しても私たちの冷凍庫にタッパーはもう入らないので、ナイロン袋に入れて冷凍庫の隙間に差し込むようにして保存し、残りはジュースやジャムにしてしまう。夫の両親は10年ほど前、ベリー保存のために冷凍庫を一台買ったそうだ。ほとんどベリー専用ともいえる冷凍庫を、北フィンランドの家庭でよく見かける。フィンランド人にとってベリーがどれだけ大事な食材かわかっていただけると思う。

リンゴンベリーの実は酸味が強く苦味もあるが、そのジャムはトナカイ肉料理の付け合わせに欠かせない

森の中は岩がゴロゴロしていて、苔(こけ)むしていることも多く足場は悪い。けれどビルベリーのなる森には、なんとも言えないさわやかな甘い香りが漂っていた。夏が終わってさびしく思う気持ちはいつの間にか晴れ、保存しきれないベリーをどうやっておいしくいただくかで頭がいっぱいである。

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