花が咲き乱れる5月のフィレンツェ


私が住む街、フィレンツェはその昔、「フロレンティア(Florentia)」と呼ばれていた 。

この名の語源については2つの説がある。1つは、「birento =湿地帯の」という言葉が変化して生まれたという説。そしてもう1つは、花の女神フローラ(Flora)が語源だという説。

誰もが後者の説を信じたいと思うくらい、花が咲き乱れる春のフィレンツェには、格別の美しさがある。まるで、ボッティチェッリが描いた美しい花の女神フローラに祝福されているかのようだ。

貴族の秘密の庭園を訪れる

フィレンツェの街中は建物ばかりで庭園はないように見えるが、重厚な木戸を押して中に入ると、外からは想像が付かないほどのプライベートガーデンに遭遇することもしばしばある。そこに住んでいる人のためだけの美しい贅沢な庭だ。

中をのぞき見ることができなくても、かなりの樹齢の藤の花が咲いているのがチラリと見えたり、塀の上から甘いジャスミンの香りが漂ってきたりする。

毎年5月のある時期にだけ開放されるコルシーニ邸の庭

そんな隠れた庭園に足を踏み入れる貴重な機会を与えてくれるのが、貴族コルシーニ邸の庭で開かれる、アルティジャナート・エ・パラッツォ展。毎年5月半ばに4日間だけ市民に開放される。

この展示では、トスカーナを中心に国中から選ばれた職人の手仕事を間近で見ることができ、気に入れば作品を買うこともできる。作品のジャンルは、テキスタイルから陶芸、かご、香水、お菓子、チーズ、絵画などさまざま。

コルシーニ邸のイタリア式庭園

何より私が楽しみなのは、幾何学模様をかたどった典型的なイタリア式庭園を満喫できること。いつもは見ることができないから、この期間だけのお楽しみだ。バラが咲き乱れ、レモンやオレンジがたわわに実をつけた大きなテラコッタの鉢が所々に置かれた優雅な庭園にいると、日常の喧噪を忘れられる。

藤のトンネルも見頃

4月から5月にかけては、アルノ河沿いの庭園も見頃を迎える。

4月半ばは、バルディーニ庭園の藤のトンネルが素晴らしい。ベンチ通りからアルノ河に出て、ふと見上げると、斜面に見事な紫色の帯が見える。ああ、もう今年も藤の季節なのだなと、気づかせてくれる。藤の季節、晴れた週末は街中に出てくる人が多くなる。

バルディーニ庭園の藤のトンネル

バルディーニ庭園には、フィレンツェを見下ろしながらお茶が出来るとても居心地のよいカフェもある。

春の品評会と花市

そして、フィレンツェの人がいつも楽しみにしている花のイベントは、アイリスが咲く1ヶ月だけ開放されるアイリス庭園での品評会と、リベルタ広場の近くで春と秋にそれぞれ1週間だけ開催される花市だ。

アイリス庭園

観光名所で高台にあるミケランジェロ広場の真横にあるアイリス庭園は、イタリアアイリス協会という団体が管理しており、近年予算不足でかなり大変だと聞くが、それでも毎年、ボランティアが協力してアイリスの品評会を開いている。

イタリアだけでなく世界中から持ち込まれた珍しい種類のアイリスが植えられ、その美しさや珍しさを競い合う。フィレンツェの赤屋根とアルノ河を背景に、オリーブの木の間に植えられた色とりどりのアイリス。昔は、この辺りに、ジャーマンアイリスが沢山自生していたのだなと想像させてくれる風景だ。

珍しい種類のアイリスが集まる

リベルタ広場のオルティ・コルトゥーラ庭園で開かれる花市は、フィレンツェの住民がとても楽しみにしているイベント。開催期間中は、大きなバラの鉢やハーブの苗を抱える人々でごったがえす。

表通りからは見えないが、中庭のテラスで鉢植えの花を大切に育てている人は多いのだ。ヨーロッパの気候に合うのか、ゼラニウムはびっくりするほど花の付きがよく、石造りの壁に映えてとても美しい。

よく、「フィレンツェを訪れるのに一番おすすめの時季は?」と聞かれることがある。どの季節もそれぞれによさがある街だけれど、あえて選ぶならやはり春だ。特に、花が好きな人には、ぜひ春から初夏にかけてのフィレンツェを楽しんでいただきたい。きっと、フィレンツェの語源はやっぱり花の女神フローラだと思っていただけるだろう。

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