イタリアの古代小麦を求めて


イタリアで数年前から始まったオーガニックブームは、一時的なブームを通り越してかなり定着して来た感がある。大手スーパーもこぞってBIO(オーガニック)製品の棚を広げ、パン売り場に全粒粉または半全粒粉を使ったBIOのパンが増えた。

さらに最近では、伝統的な古代種である「grano antico (グラーノ・アンティーコ=古代小麦)」という言葉を耳にする機会が多くなってきた。

バランスのいい古代小麦

水車小屋プロジェクトに関わり始めてから、市場に出回っている大部分の小麦粉は1930年頃から出回り始めた改良品種の小麦で作られていることを知った。1930年以前は、さまざまな種類の古代小麦、グラーノ・アンティーコがイタリアに存在していたという。

今出回っている近代小麦は、成長が早く収穫量が多くて病害虫にも強い。そのため、導入されてから短期間で、それまで長く栽培されていた多くの種類の古代小麦に取って代わったのだ。イタリアの各地で栽培されていた多数の古代小麦が、一気にたった数種類の近代小麦になってしまったことで、残しておいた種もみを翌年にまくという古代から続いて来たサイクルが分断された。

近代小麦の粉は、発酵が容易で安定しやすいため大量にパンを作るのに向くものの、でんぷんに対して、タンパク質の一つであるグルテンの割合が高すぎるという欠点がある。グルテンが多いと生地に弾力が出やすく容易にパンを作れるのだが、栄養のバランスが偏ってしまう。

古代小麦から作った粉は、品質が安定せず発酵も一定ではないため、大量生産には向かない。ただ、でんぷんとグルテンのバランスがいい。焼き上がった後も粉の風味が残り、味わい深いパンになる。

最近では、風味のいいパンの原料である古代小麦が再評価され、イタリア各地で栽培されるようになってきた。

前回のコラム「水車小屋“修復”計画と私たちの夢」でご紹介した水車小屋プロジェクトでも、水車を修復するだけでなく、自分たちで古代小麦を栽培し収穫して、石臼でひいて粉にするという目標を掲げた。

昔の道具が復活

まずは古代小麦の種もみの準備をする。種もみとは、種としてまくために選んでとっておく小麦のこと。私たちが用意したのは、ジェンティル・ロッソという種類だ。

畑に種もみをまくには、種となる小麦をきれいにする事から始める。刈り取られた前年の小麦には、雑草の種や小石などが混じっている。それらを取り除くのは、簡単な作業ではない。

私たちは水車小屋に使われずに残されていたバーリアと呼ばれる古い道具を掃除し、使えるようにした。長く使われていなかったのに、汚れを取り除き油を注すと手回しすることができた。回った瞬間は、皆うれしくて拍手喝采だ。

水車小屋にあったバーリアを掃除する

バーリアは、ハンドルを回すと筒が回転し、いくつかの網を通過しながら、最後には純粋な種もみだけを下に落とすという仕組みになっている。これで種もみの準備が完了した。

ミレーの絵のような種まき

プロジェクトのメンバーがトラクターで畑を耕すと、いよいよ種まきだ。

私たちは機械に頼らず、昔ながらの方法として、手で種をまくことにした。ただ、上手にまかないと一箇所に種が固まってしまい、均等な間隔で発芽しない。これが意外と難しい作業だ。

助っ人として、81歳になるジョヴァンニさんが、種まきの仕方を教えてくれた。手で畑に小麦をまく方法を教えられる人は村でも彼だけだ。

ジョヴァンニさんの種まき

私たちがまこうとすると小麦は固まって地面に落ちてしまうのに、彼の手にかかると、1粒ずつが美しい放物線を描き、均等に広がって地面に落ちる。簡単そうでいて、熟練したテクニックが必要な作業だ。

ジョヴァンニさんはちょっと腰を落とし、腕を大きく振りながら小麦をまく。ミレーが『種まく人』で描いた風景そのものだ。

去年の12月半ばに種まきをしたが、そろそろ小麦が10センチくらいの高さに成長してきた頃だろう。気温の上昇とともに小麦は一気に成長し、7月頃には刈り取りに入る。

さて、無事に収穫が出来るだろうか? 期待と不安が交じりながらも、皆で成長を見守っている。

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