水車小屋“修復”計画と私たちの夢


去年の夏の終わり頃、私たちのGAS(有機農産物の共同購入グループ)に、ある話が舞い込んで来た。近くの村の古い水車小屋で、水車が壊れて粉挽き(ひき)に使えなくなってしまって、オーナーさんが悲しんでいる、誰か修理をして使ってくれる人を探している、と。

この水車小屋は、現在のオーナー、ジュゼッペさんの父親の代まで村の粉挽き所として使われていた。ところが高校教師になった彼の代で粉挽き所は閉鎖し、趣味でたまに粉挽きをするために使う程度だったそうだ。ジュゼッペさんも歳をとりメンテナンスに手をかけられなくなったが、とはいえ壊れて動かない水車を見るのはつらい。そんな彼を想って、奥さんのジョヴァンナさんが私たちのグループに相談をしてきたのだ。

私たちGASのメンバーは「自分たちで育てた小麦を、石臼で挽いて、その粉でパンを焼いてみたい」という夢をつねづね話し合っていたところだった。

育てた小麦を挽いて焼くパン

話はトントン拍子に進み、私たちのGASが水車小屋の修理を皆で行って、粉挽き所を再開させようというプロジェクトがスタートした。

集まったのはGASの中の有志20人。毎月1度、「次の日曜日に水車小屋で作業」と連絡があると、それぞれが道具を手に、水車小屋に集まってくる。

水車小屋の内部

トスカーナでも、今や現役の水車小屋は本当に少なくなってしまった。フィレンツェの北側で稼働している粉挽き所はたった二つ。

このあたりの水車小屋は、上下の2重構造になっている。1階に粉を挽く石臼、地下に石臼に直結したタービンがある。

川からの水を迂回させ、大きな池に水をためる。水門を開くと、水が一気に深さ5メートルほどのトンネルを落下し、地下のタービンに勢いよく流れ出る。水の勢いで、スプーン状の羽根が回転し、主軸でつながっている上の石臼が回り始めるという仕組み。石臼の回転の速さを調節する仕組みや、途中で止めるためのブレーキもあり、なかなか複雑な構造だ。

ジュゼッペさんの水車小屋は、タービンの木製の羽根が摩耗してくぼみがなくなってしまい、数も足りない。水を溜める池にも木が生い茂り、泥がたまってほとんど水がたまらない状態だった。

まずは男性陣がチェーンソーで木を切り倒し、女性陣はスコップでトンネルにたまってしまった泥をかき出す。掃除が得意な女性陣は石臼のある部屋をピカピカにした。

資金ゼロで続けられるワケ

池に生い茂っていた木は伐採し、メンバーの1人が小型のショベルカーで余分な土を取り除くと、池らしくなってきた。タービンに水が流れ出る口の部分の水門と12本のタービンの羽根は、池の掃除の時に切り倒した木で新しく作り直した。

通常、こうした計画が立ち上がった場合、かかりそうな費用を試算して自治体に助成金を申請するという方法をとることが多いのではないだろうか。このプロジェクトでは、それぞれのメンバーが得意分野を生かして、できることをやっている。木工職人、壁塗りが上手な人、電気工、測量士、掃除が得意な人、会計士……。特別なことができなかったとしても、いつもスコップを手に駆け付つけてくれる人もいる。

GASのメンバーたち

「プロジェクトが開始してから今まで、メンバーから1ユーロも資金を集めたことがない」というのがグループの自慢だ。おカネで解決するのは早くて簡単だけれど、今の私たちには、それには替えられない喜びと楽しさがある。

皆が、この水車小屋の石臼が再び動いて、粉を挽くこと、そしてその粉でパンを焼くことを夢見ている。そしてその夢に確実に近づいていると思う。次回のコラムでは、皆で育てている小麦について、お伝えしたい。

  • この記事をシェア
トップへ戻る