大みそかの夜、フィンランドの空に花火が映える

日本で過ごしていた年末のある日。母はお正月用の食材を買いに近くの商店街へ出かけ 、普段は家の用事などあまりしない父が台所で換気扇フードの油落としをしている。私もソワソワと忙しいフリをしてコタツから出たり入ったりしながら年末特別番組を観る。

マンションの役員のおじさんたちが「火の用心」の掛け声とともに拍子木を鳴らして回ってくれている。一年のけがれを落としひと息ついたら、いよいよ大みそか。おごそかな雰囲気の中、除夜の鐘を聞きながら新年を迎える。年が明けると、初日の出に初詣で、初夢、書き初め……。

クリスマスの余韻

私はフィンランドに来て、節目を大事にして暦とともに気持ちを新たにする、という考え方は、日本人に特有の美しい文化なのかもしれないと思うようになった。フィンランドではクリスマスを家族で盛大にお祝いするけれど、年末年始の迎え方は日本と少し違う。

クリスマスが終わっても、フィンランドにはまだその余韻が残っている。大みそかにもヘルシンキの義妹の家の窓辺にはまだクリスマスに飾るトントゥがあり、クリスマスツリーも1月6日ごろまではそのまま飾って楽しむ。

クリスマスセールが終わったスーパーなどの大型店には、花火の特設売り場が現れる。日本ではプロの花火師しか扱わないのではないかと思うような、大型の打ち上げ花火がたくさん並ぶ。

3年前の年末はヘルシンキで年越し。3歳前だった息子はいとこと防寒服で、初めての手持ち花火を楽しんだ

3年前の年末はヘルシンキで年越し。3歳前だった息子はいとこと防寒服で、初めての手持ち花火を楽しんだ

フィンランドでは大みそかの夕方6時から明けて元日の午前2時までの8時間だけ、無許可で花火を打ち上げていいことになっている。家庭で花火を打ち上げて新年の訪れを祝うのだ。これらの花火は危険なので18歳未満の人への販売は禁じられていて、買うには身分証の提示が必要だ。花火を打ち上げる人が目を保護するためのゴーグルまで売っている。この辺のきまじめさがフィンランドらしいと思う。

そしていよいよ大みそかの夜6時ごろから、雪に覆われたロヴァニエミでは 、ヒュ〜、ドンッという音があちこちで響き始める。子どもたちは「どこどこ?」と急いで窓に駆け寄り、間に合って大きな花火を見られるとうれしそうだ。市が開催するカウントダウン花火も、街の中心部を通るケミ川近辺で上がり、たくさんの人が集まる。

でもマイナス10度とかマイナス20度の厳しい寒さの中で花火を見るのはなかなか忍耐力がいる。私にとって花火は夏の風物なので、ロヴァニエミでも夏に花火を楽しみたいなと考えたのだが、そういえば白夜の明るい空に花火は映えないと思い当たる。

年越しはすずで占い

もう一つの年越しの行事といえば、錫(すず)を使った占いがある。

馬蹄形のすずを専用のお玉に入れて熱し、溶けたところで洗面器などに張った水に投げ入れ、できた形から新年を占うのだ。日付が変わるころに家族や友人との集まりでよく行われる。すずや専用のおたまはスーパーなどで数ユーロで手に入れることができる。

バラバラになってしまったら凶、すずの塊の表面に泡があったら金運に恵まれる、などすずの状態から読み取る方法と、影絵のように壁に輪郭を映し、連想される形から読み取る方法がある。船のように見えれば航海や旅のしるし、花に見えれば幸運が訪れる、など一応の言い伝えのようなものはあるが、皆が口々に形から連想する言葉を出し合っていて、むしろそちらを楽しんでいるようだ。

錫を熱して溶かし水に投げ入れ、できた形から新年の運勢を占う

すずを熱して溶かし水に投げ入れ、できた形から新年の運勢を占う

料理についての考え方は日本と全然違う。年越しに食べるのは、なんとポテトサラダとソーセージ。クリスマス料理の仕込みで忙しく働いたお母さんたちがゆっくり休むため、新年を迎える日のメニューはシンプルになっているのだそうだ。

日本では何日もかけておせち料理を仕込んでから新年を迎えることも多いが、フィンランドではクリスマス料理がおせち料理のようなもの。元日が明けて2日からは平常どおりの毎日に戻るので、新年だからといって特別な料理をすることはあまりない。

日本が恋しくなることもある

日本が恋しくなることもある

ここに住みたいと願って移住したフィンランドだけど、1年のうち何度かは日本に帰りたくなる時期があって、年末年始がその一つ。

お餅が焼ける香ばしいにおいと、母が作るお雑煮の味や、年賀状を読む父の姿。いつもより静かでゆったり時間が流れていた日本の元旦を恋しく想い、フィンランドで育つ息子にもそれを味わわせてやりたいと思うけれど、やはり日本で育たねば、この年越しの記憶は共有できないのかもしれない、とも思う。

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