皮までおいしいイタリアの無農薬リンゴ

1

それぞれの季節に食の楽しみがあるトスカーナ。秋に心待ちにしているのが、有機リンゴだ。わが家から車で20分ほどのところに、いつも有機リンゴを売ってくれるセルジョさんの果樹園がある。

北イタリアの市町村にはGAS(グルッポ・ディ・アクイスティ・ソリダーレ)という、オーガニックの農産物を共同購入するボランティアグループがあり、私も村のGASに参加している。

GASの活動として、私が彼のリンゴ購入を担当するようになってから何年が経っただろう。今では私の村だけでなく、フィレンツェにあるいくつかのGASのオーダーもまとめるようになった。だから収穫の時期は3週間に一度、彼とともに車2台にたくさんのリンゴを積んで、フィレンツェ市内に届ける手伝いをしている。

車2台分のリンゴを積む

車2台分のリンゴを積む

1キロ当たり1.25ユーロ(約150円)で、1袋は4キロ。わざわざトラックを使わなくても自家用車2台で十分なので、数年前からこのやり方でフィレンツェの街へ運ぶようになった。村のGASのオーダー分も直接、私が果樹園まで受け取りに行っている。

基準は消費者が決める

イタリア語で「有機」は「Biologico」、略して「ビオ」。でも一言でビオといっても、その姿はさまざまだ。

ビオのラベルを貼って食品を販売するには、EU連合の厳しい基準を満たしていなければならない。ところがそれらの基準には、実際の有機農業と認識のズレがある部分も多く、膨大な書類作成に時間や費用がかかる。本来の有機農法の思想に基づいて有機栽培を行っている小規模の農家にとっては、あまり意味を持たないシステムだ。

だからしっかりした販売網がある小規模の農家には、かなり本格的な有機農法で作物を育てていても、ビオラベルを取得していないところも多い。セルジョさんもそう。消費者である私たちが、彼のリンゴの育て方を十分に理解しているので、EUのビオラベルは必要ないのだ。

安全でおいしい有機リンゴを作るセルジョさん

セルジョさんのリンゴ作りには買い手側の理解も欠かせない

GASのグループ内で毎年リンゴを買う家庭はほとんど決まっているので、オーダーの量が安定している。農家にとっては、移り気な消費者を追ったり宣伝したりしなくていい。包装も最低限でいい。また、収穫期には、納品の数日前にオーダーがついた分だけ果樹から収穫するので、無駄がない。

セルジョさんが今のやり方で小規模農家を続けていくには、買い手側の理解が欠かせない。私たちは買う側として、彼が安全でおいしい有機リンゴを作り続けられるようサポートする。そして彼は私たちに、ほかでは買えないおいしい有機リンゴを良心的な価格で売ってくれる。こうした信頼関係が、ずいぶん前から続いている。

虫が食うほど安全

セルジョさんは苦労人だ。農場の裏手にできたF1サーキット場の騒音で羊のミルクが出なくなり、特急列車の地下トンネル工事が原因で水脈が分断され、湧き水が枯れてしまった。だから彼の果樹園では、ほとんど水やりはしていない。

リンゴの実がつく時期に雨が降れば収穫できるけれど、雨が少ない年はまったく収穫できないこともある。それでも彼はリンゴを作り続けるし、私たちも毎年、彼のリンゴが取れ始めるのを心待ちにしている。

肥料にしているのは飼育している羊たちの堆肥

肥料にしているのは飼育している羊たちの堆肥

多くの果樹園では水に液体肥料を混ぜて木に与えるけれど、セルジョさんが肥料にしているのは飼育している羊たちの堆肥だけ。地面に落ちたリンゴは羊たちの大好物だ。

セルジョさんのリンゴに、GASメンバーから文句が出たことがあった。「虫食いリンゴを売るなんて」というものだ。農薬はまったく使わないから、虫食いリンゴが混じることもある。でもそのことをグループ内で話し合ったとき、1人のメンバーの言葉にハッとした。「1袋に虫食いのリンゴが1個も入っていないなんて、そんなリンゴは僕は皮まで食べないな」。虫食いが混じるのは、虫が食うほど安全なリンゴという証拠なのだ。

t

安全なリンゴだから皮までおいしい

虫食いでも食べる分には問題ない。虫はリンゴの花の付け根から中に入り、芯の部分から食べ始める。だから虫食いとはいっても、真ん中の芯を取り除けば周りは十分おいしく食べられる。

セルジョさんのリンゴは皮までおいしく食べられるから、皮をむかなくていい。彼のリンゴを食べるようになって、リンゴの皮のおいしさに気づいた。今ではいちばんおいしい部分だとさえ思う。

虫食いでも食べられる。リンゴの皮はおいしい

虫食いがあっても芯を取り除けばおいしく食べられる

大きいリンゴ、小さいリンゴ、甘いリンゴ、酸っぱいリンゴ……袋の中には見事に個性的なリンゴが入っている。それぞれが違うから、食べる度に変化があって面白い。夕食後に手に取るリンゴを見ながら「今日のはどんな味だろう?」とワクワクする。

GASのリンゴ係になって、うわべだけではない「オーガニック」が少し見えてきたような気がする。それは、お仕着せのオーガニックの基準ではなく、生産者と消費者の信頼関係があって初めて成り立つ有機栽培のあり方なのではないかと思う。

  • この記事をシェア
トップへ戻る