驚くほど野菜がおいしくなるせいろの威力

Photo by MARIA

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横浜・中華街の蒸籠(せいろ)から店の人が取り出すホカホカの肉まんは、コンビニの保温庫から出てくるものよりずっとずっとおいしそう。せいろごとテーブルに出す温野菜は、それだけでごちそうに見える。冷凍のチマキも、お土産のシウマイも、せいろで温めたらきっとおいしいのだろう。

でも、せいろは大きくて場所を取るし、使い方もなんだかよくわからない。使いこなせる気もしない。そう思って、買うのをためらう人はけっこういると思う。私もそうだった。

だからおよそ10年前、合羽橋の道具街でせいろを買ったのは本当に気まぐれだった。「これで蒸した野菜を食べてごらんよ、それだけでおいしくて、立派なおかずになるよ」。ニコニコ顔のお店のおじさんに力説されたら私にも使いこなせるような気になったのだ。

うま味をギュッと閉じ込める

実際、使ってみたら、意外と使いこなすことができた。

せいろで蒸した野菜はびっくりするほどおいしい。ニンジン、ピーマン、トウモロコシ、ジャガイモ、カボチャ……。どの野菜も、うま味が野菜の中にギュッと閉じ込められていて甘い。

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蒸すときはキャベツの葉を下に敷き、硬い野菜から入れていく。野菜によって蒸し時間は違うが、たいてい15分もあればすべての野菜が蒸し上がり、夕飯のおかずが一品完成する。食べるときにはちょっと塩を振るだけでいいし、好みでマヨネーズやオリーブオイルを合わせてもおいしい。野菜だけでなく、たとえば1段目に餃子を、2段目に野菜を入れれば、なんと2品が15分で出来上がってしまうのだ。

使い終えた後のお手入れも簡単だ。基本的には、タワシでごしごし洗って干しておくだけ。蒸し器なので汚れはほとんどなく、洗った後によく乾燥させることだけ気を付けていればカビの心配もない。忙しい人にとってこんなに頼りになる道具はないのではないか。

お手入れも簡単だ

お手入れも簡単だ

あれだけ迷っていたくせに、買ってからというもの、せいろはかなりの頻度でわが家の食卓に上るようになった。

大きな蒸しパンも簡単に

せいろはおやつ作りにも活躍する。中でもお勧めなのは、蒸しパンだ。それも、せいろにいっぱいの、名付けて“でかでか蒸しパン”。

作り方は簡単。牛乳と卵、砂糖を混ぜ、そこに湯せんで溶かしたバター、振るった小麦粉とベーキングパウダー少々を加え、お好みの具を入れてさっくりと混ぜる。クッキングシートでせいろいっぱいになるほどの大きな型を作って生地を入れ、15分ほど蒸したら出来上がり。中に入れる具はチーズやドライフルーツなどお好みで。甘さを控えめにすれば、朝食にもぴったりだ。

作り方は簡単

チーズやフルーツを入れてもおいしい

オーブンで焼くときに漂うパンの香りも大好きだが、せいろの中で膨らむ、でかでか蒸しパンの香りも、湯気と相まってなかなかのもの。ふたを開けたとき、湯気の中から登場するふんわりとした蒸しパンは作った人も笑顔にしてくれる。出来上がった瞬間を楽しめるのは、作った人だけの特権だと思う。

いつしか力説する側に

でかでか蒸しパンを作るたびに思い出すのは、私がうんと小さい頃、母が作ってくれたニンジンの蒸しパン。母が近所のお母さんたちを集めて台所で焼いていたもので、オレンジ色が鮮やかで、食べれば甘くおいしかった。あの青臭いニンジンがこんなにおいしい蒸しパンになるのか、とびっくりしたことをなぜか鮮明に覚えている。

ほかほかの湯気に包まれて

ほかほかの湯気に包まれて

湯気に包まれた蒸しパンを取り出すとき、母は今の私のように幸せな気持ちになったに違いない。そして今思えば母も、友達と楽しむお菓子作りに、普段の料理とは違う楽しみを見つけていたのだろう。自分が台所に立つようになってから、母のたいへんさも楽しさもよくわかるようになった。

せいろを使い続けて10年。肉や野菜のおかずに、パン作りに……と大活躍して、本体もふたもあめ色になり、だいぶ年季が入ってきた。先日、友人がうちへ来たとき、せいろを見てこう言った。「せいろ持ってるんだ。いろいろ面倒じゃない?」。

いやいや、これで作る蒸しパンのおいしさといったらね……。あのときの合羽橋のおじさんさながら力説する、せいろ歴10年の私がそこにいた。

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