南イタリアの海辺で過ごした夏休み

ここ数日、空の青さが少し薄まって、昼間の日差しも柔らかく、朝晩が涼しく過ごしやすい気温になる。ああ、2016年の夏は、これでおしまいだなあ、と今年も家族で過ごした海での思い出がよみがえってくる。

9月に入っても、イタリアの学校はまだまだ夏休み。娘の高校は9月15日に新学期がスタートする。6月11日に始まってから、約3カ月間の夏休み。この間、大量の宿題が出るわけでもなく、絵日記があるわけでもない。

ラジオで耳に入ってくるイタリアの教育評論家らの多くは、“長い夏休みに賛成派”。中には、宿題を完全に撤廃するべき、と主張する人もいる。イタリアの「のびのび教育」はある程度はいいけれど、3カ月何もしなかったら、勉強したことを忘れてしまうんじゃない? と少々不安にもなる。

娘が小学校だったとき、夏休みの宿題と一緒に、担任の先生からのメッセージが届いた。「子供たちはこの1年間本当に頑張りました。だから休ませてあげてください。宿題は6月中には始めないこと。7月の半ばから少しずつ始めるように」と書かれていた。いったん、完全にスイッチをオフにすることが大切なのだという。

時の流れが違う海辺の街

スイッチをオフにする=テレビやインターネット、ゲームに没頭するという意味ではない。本を読んだり、映画を見たり、山に行ったり海に行ったり。普段の忙しい生活では出来ないことを体験して、好きなだけ遊ぶのが夏休みだ。

イタリア人は、夏は必ず海に行く。山派も増えているが、大半は長い夏休みの間に少なくとも1回は1週間以上、海でバカンスを過ごす。イタリア半島は海に囲まれているので、東に行けばアドリア海、西に行けばティレニア海、南はイオニア海。6月末から9月の夏休みシーズンは、海辺の街がとたんににぎやかになる。

娘は例年どおり、南イタリア・プーリア州の海辺にある主人の実家の別荘で1カ月を過ごした。迎えに行くついでに、私たち夫婦も1週間、海でのバカンスを楽しんだ。おじいちゃん、おばあちゃん、そしていとこたちに囲まれて海で過ごす夏休みを、娘は毎年楽しみにしている。

海で

暑くなったら海に入って遊ぶ

海辺の街に行っていつも感じるのは、時間の流れの違い。海辺の街では、夕飯を食べた後、子供たちがまた公園に戻り夜の10時ごろまで遊んでいる。夜の公園で自転車や三輪車に乗って遊ぶたくさんの子どもたち。はじめて見たときはとても驚いた。

肉屋や八百屋、ミニスーパーの営業時間は、朝9時から12時。そして昼休みを挟んで、夕方5時から夜10時まで。5時間の昼休みで家に帰って家族と昼食を食べ、昼寝をして、夕方また店に戻るのだ。

一日のメインイベントはランチ

海の家で過ごす私たちの生活もまた、のんびりしている。

朝は遅く起きて、徒歩5分の場所にあるビーチへ移動。暑くなったら海に入り、またビーチで横になり、本を読んだり、走り回る子供達を観察したり……。

一日でメインのイベントは、家族全員で食べるランチ。週末のランチは、3家族+お義父さん、お義母さんの総勢12人がそろう大切な食卓だ。

プリモは、お義母さんが1個ずつ手で丁寧に作る耳たぶ型のパスタ、オレッキエッテ。お義母さんは12人分、テーブルいっぱいのオレッキエッテをあっという間に作ってしまう。神経痛で肩が痛いと言っていたので今年は食べられないかとあきらめていたのに、フィレンツェから来た私たち家族のために今年も作ってくれた。

美しいオレッキエッテ

彼女ほどオレッキエッテを美しく作れる人は、地元でももう少ないと思う。

セモリナ粉と水をこね、卵は入れない。絶妙な水加減とこね具合、そして1個ずつナイフで台に押し付けながらくるりと親指にかぶせて作る動作は、簡単にはまねすることができない。表面はつるりとせず、脈を打ったように模様が出なくてはいけない。この部分にソースが絡むのだ。美しいオレッキエッテは、6歳の頃から70年間以上作り続けてきたという、彼女の歴史そのものだと思う。

お義母さんが作る、美しいオレキエッテ

お義母さんが作る、美しいオレキエッテ

オレキエッテに、お義父さんの畑で採れたトマトのソースと、カチョリコッタと呼ばれるプーリアの塩気の強いチーズのすりおろしを振りかけて食べる。パスタ、チーズ、ソースという順番で食べるのもまた、この家に代々伝わる、オレッキエッテの食べ方である。

セコンドは、炭焼きにした鯛や羊肉。シンプルに塩とオリーブオイルで食べる。畑で採れた特大のパプリカも一緒に炭焼きにして皮をむき、トマトと合わせて付け合わせのサラダにする。

ランチは

トマトのソースとチーズのすりおろしを振りかけて食べる

食べ始めるのは午後2時。大きなテーブルに12人が勢ぞろい。ワイワイおしゃべりをしながら、プリモ、セコンド、フルーツと食べ進める。最後のコーヒーを飲み終わるのは4時ごろ。

食事を終えると、お義父さんとお義母さんは昼寝をする。昔、初めて南イタリアに行った時、昼寝の習慣にずいぶんと驚いた。ソファでうとうと……というのではなく、窓を閉め、ベッドに横になって完全に寝てしまう。暑い時間帯は起きていても無駄ということらしい。子どもたちは大人を邪魔しないように小声で、でも楽しく遊び続ける。そして夕方、また海へ行く。

50年書き留めたノート

夕食は各自、昼の残り物を食べたり、フルーツを食べて軽く済ませる。私と主人は、夕食後には海辺の散歩をしたり、同じ別荘仲間の友人宅を訪ねたりする。

お義父さんとお義母さんは、庭先のテラスのテーブルでトランプ。かれこれ50年以上続けているらしく、勝ち負けの点数を書き留めた古いノートがある。毎晩、ノートに勝ち負けを書くのだ。

どっちが強いのか、弱いのかはあまりよくわからない。でも、二人がいつまでも、こうして夜のトランプゲームを続けて行ける事が、何ともほほえましく、使い古したトランプには二人の歴史が見える。

こんな日々を過ごしていると、この幸せな夏休みが終わりなく、永遠に続いていくような錯覚になる。2016年の海でのバカンスは、心のノートに大切に書き留めておこう。

  • この記事をシェア
トップへ戻る