水面のデザインが美しい蚊遣り箱

私が今の住まいに引っ越してきたのは4年ほど前。家の向かいが小さな丘のようになっていて、斜面には木や花が植えられており、季節ごとにさまざまな花が咲いて目を楽しませてくれる。春にはウグイスがやってくるし、夏にはセミが、秋にはトンボが飛んできて、季節を感じさせてくれる。引っ越す前、家はもちろん、自然豊かなこの風景が一目で気に入った。

だが、たった一つ、悩みがある。……蚊である。

Photo by MARIA

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この自然豊かな環境ゆえ仕方ないのだが、初夏から冬の入り口まで、我が家の周りでは蚊がすごい。秋もすっかり深まる11月頃までは、無防備に肌を出しているとたちまちボコボコにやられてしまう。だから、草むしりをするときも子どもたちが外で遊ぶときも、虫よけスプレーはもちろん蚊取り線香が欠かせない。

香炉としても使える

蚊取り線香を使うのはいいが、蚊取り線香に付いてくる蚊取り線香ホルダーがどうも好きになれなかった。まず見た目の“とりあえず感”(とりあえずこのホルダーが使えます、という感じ)が好きになれないし、草むしりをするときにも持ち運びしづらい。

Photo by INOBUN

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だから、鎌倉の雑貨屋でこの蚊遣りを見つけたときは迷わず買った。「波紋(はもん)」という名の蚊遣り箱。何といってもベトナムの香炉のようなデザインが気に入った。水面の波紋をイメージしたデザインで、一つひとつ手作りのアンティークなのだそう。

使い勝手もいい。持ち手があるから移動するときにもパッと持ち上げやすい。

フタを開けると蚊取り線香を差せるようになっている。火をつけたら差して、フタをするだけ。火種がむき出しにならないので安心。フタは複雑な模様になっているから、草むしりの最中も、むしった草が降りかかって燃える心配がない。

Photo by INOBUN

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ゆらりゆらりと蚊取り線香の煙がフタのすき間から出てくるさまは、とても美しい夏の風物詩。蚊の季節が過ぎれば、お香をたくときの香炉として使うこともできる。私は鎌倉の「鬼頭天薫堂」で買った「あじさい」という名のスティックタイプのお香が気に入っている。

デメリットを挙げるなら、中でフタがいぶされるので、どうしても内側にヤニが付着するということ。数回使ったら柔らかい布を湿らせてふくといい。ヤニがこびりついてしまったら、薄めた中性洗剤とスポンジで洗い、しっかりとふけばきれいになる。ヤニにホコリが付着すると汚れが落ちにくくなるので、早め早めの手入れが肝心。

部屋の中で……にはご注意

ところで蚊取り線香というと、思い出すことがある。もう大昔、高校生の頃の話。夜、部屋で試験勉強をしていたら耳元で「プ~ン」という羽音が聞こえた。試験勉強のイライラもあって辛抱たまらず、蚊取り線香に火をつけ、しばらく部屋を締め切った。

30分後部屋へ戻ると、四畳半の部屋の中は当然煙でいっぱい。畳を見ると、1匹の蚊が息絶えていた。「よし!勝った!」とガッツポーズをとり、窓を開けて風を通し、安心して就寝したのだが……。

蚊取り線香をたくと今でも思い出す

蚊取り線香をたくと今でも思い出す

翌朝、登校するために制服を着た私は、強烈な蚊取り線香臭に倒れそうになった。そう。壁に吊るされた制服は、見事に蚊取り線香のにおいを吸い込んでいた。後悔先に立たず。制服なんて1着しか持っていない。どう頑張ってもにおいを消すことなどできず、泣く泣く登校したのだった。

その日は一日、憧れの先輩に会いませんようにと廊下に出るたびに祈り、無駄に外に出ては制服をはたいたりしながら一日を終えたのだった。17歳。今なら「やっちゃったよ」で笑って済む話も、あの頃は必死だった。「布にはにおいが染みつくのだ」ということを痛いほどに学んだ。

今もまだ、蚊取り線香の匂いで思い出す。煙くて情けなくて、でもちょっと笑える懐かしい思い出だ。

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