フィレンツェの田舎から、こんにちは

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イタリアと聞くと、どのようなイメージが浮かぶだろう? パスタ、ピッツァ、陽気な人たち、青い空……。

20年近くイタリアで暮らしていると、毎日の生活の隅っこに「ああ、イタリアだなあ……」と感じたり、「日本と同じ!」と感激したりする瞬間がある。そんな小さな破片をパズルのように集めながら、ステレオタイプのイタリア像とは少し違った、イタリアという国のイメージを私なりに伝えられたらと思う。

ゆっくりじっくり家づくり

午後の暑さが少し落ち着いて、夕方の涼しい風が森から吹いてくるこの時間は、森の奥から、ウプパというキツツキに似た鳥が美しい鳴き声が聴こえてくる。

フィレンツェは、京都に似ているとよく言われる。どちらも歴史のある街であり、周囲を山や丘に囲まれ、その先にはかなり深い森が残っている。

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わが家は、フィレンツェの北側に20kmほどの場所にあり、フィレンツェの街中とは、真夏の夜間の温度が10℃低いことも。自然豊かな場所で、イノシシやカモシカ、野ウサギやヤマアラシ、キジなどの野生動物が生息している。車で走っていると、イノシシの親子がトコトコと横切ることもしばしば。今では慣れたが、引っ越してきた当初は随分とびっくりしたものだった。

私たち夫婦がこの家を購入してから、もう13年が経った。床を貼り、扉を作り、森を開墾して畑をこしらえた。ピザやパンを焼く石窯も、土台から自分たちで作った。13年経った今でも、まだまだ、手を入れたい部分はたくさんある。

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じっくり、ゆっくり、急がず。イタリア人の夫、アントネッロのペースで、進めてきた家づくり。時には、一気に仕上げてしまいたい気持ちに駆られることもあったけれど、今思えば、少しずつ作っている過程が楽しく、一つひとつが完成したときの喜びは格別だった。

今13歳になった娘ユキが成長するのに合わせ、私たちの生活スタイルや家の姿も少しずつ変わった。らせん階段を作り、屋根裏部屋を改造して子ども部屋を作り、ハンモックを吊るしたりもした。何か欲しいものがあるとき、娘が「買って」ではなくて「作って」とおねだりするのは、何でも作ってしまうアントネッロの姿を見て育ったからかもしれない。

顔の見える関係がうれしい

私たちの家は小さな村から1km程、森に入った山の上にある。この村には、保育園、幼稚園、小学校、中学校が一つずつあり、周辺地域(といってもとても広いのだけれど)の住民のほとんどは、子どもを村の公立校に通わせる。

私が、GAS(グルッポ・ディ・アクイスティ・ソリダーレ)という、オーガニックの農産物を共同購入するグループに参加したのは、娘の小学校がきっかけだった。娘が小学校に入りたての頃、隣の席だったお子さんの母親が誘ってくれたのだ。

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7~8年のうちにメンバーが増え、現在の参加数は40家族ほど。スーパーの野菜についているオーガニック印に頼らず、生産の場をきちんとチェックして、実際にオーガニックの農法で作物を作っている農家さんを自分たちで選ぶ。

GASの活動は、すべてボランティア。皆の注文を集めて農家さんに伝え、ときには注文の品を取りに行って、毎週決まった曜日に受け渡す、というシンプルなシステムだ。注文や受け渡しの仕事は、メンバーがそれぞれ担当している。

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おいしい安全な農産物を直接買えて、簡易包装なので、ゴミもほとんど出ない。わが家には畑があるので野菜は買わないけれど、野菜や牛乳、豚肉、牛肉、チーズ、ワイン、乾燥パスタ、小麦粉、栗、果物……。農家さんの心がこもった品々は本当においしい。トスカーナの海側から月に1度、女性だけの漁師さんのグループから届く魚もある。

農産物を取りに行ったり、メンバーに渡したりするとき、野菜のできばえや悩みごとの相談、レシピの交換など、ちょっとしたおしゃべりをするのも楽しみの一つ。イタリア人って、一見まとまりがなさそうに見えるのだけれど、GASでの活動では、皆勝手なことを言いながらも、上手に運営されているのが不思議。

野菜は旬にモリモリ食べる

わが家では、自分たちで食べる野菜をキッチン前の小さな畑で作っている。冬は寒さが厳しいので、野菜を収穫できる時期は限られてしまうけれど、夕食の直前に収穫して食べるトマトやサラダ菜のおいしさは格別だ。

私は、自分の畑のトマトしか食べなくなってから、露地物のトマトの本当の旬を知った。採れない季節には他の野菜を食べればいいのだと思うと、旬でない時期には食べたい気持ちが湧かない。逆に、ズッキーニやキュウリ、トマトがたくさん採れるシーズンには、「1年分食べてしまおう!」と畑と競争をしながら野菜をモリモリ食べている。

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畑をやったり、パンを焼いたり、鶏を飼ったり。山暮らしの中でやることはたくさんあってなかなか忙しい。でも、工夫しながら楽しむ生活には、何とも言えない満足感がある。

ゆったりと過ぎてゆく時間の中で、貝殻を拾うようにちょっとずつ集めた小さな幸せは、日々の心の糧になる。急がず、ゆっくり、少しずつ、小さな幸せの貝殻を拾い続けていけたらと思う。これから、どうぞよろしくお願いします。

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